・四回目面接
キャロリン「母の気性と言ったら、それはもう短気なんていうものじゃありませんでした。とても人を厳しくこきおろす所もありました」
キャロリン「なぜここで母のことを話さねばならないのですか。母はクローディアのこととは無関係ですわ」
家族療法知らない人はこう思い込むだろうな
カール「それがあるのですよ。あなたが母親になるためのモデルにしたのは、このお母さんだけだからです」
キャロリン「私は母を怖がっていたと思います。いまだに母の機嫌をとろうとしているのかもしれません。母からの風当たりと言えばそれはきついものですし、人を打ちのめすようなものの言い方にはいつも心が咲かれる思いをします」
私「お母さんはどんなことで難癖をつけるのですか」
キャロリン「何でも良いのです。私のやることなすこと、全てが母には気に入らないのです。」
カール「昔お母さんとの間であったことを考えて見られると、今あなたとクローディアとの間で起こっていることは、なんとなく理解できますか」
キャロリン「いいえ、それは全然違いますわ。私が母と話す時には、クローディアが私にするような口のきき方など絶対にしませんもの」
カール「ご一家皆さんがダンスされる中で、あなたはご自分の母親と同じ役目を果たしておられるし、クローディアはあなたのある一部分を代表しているということなんですね。つまり『母親』に反抗したくてもその勇気がなかったあなたになっているというわけです」
カール「クローディアがあなたをばかにしたものの言い方をすると、あなたの頭の中では、クローディアがあなたのお母さんにすり替わるのです。そして、子供の時に感じたような敗北感を感じるというわけです」
カール「君は自分のおばあさんになれるとは思いもよらなかっただろう」
クローディア「でも、母はいつも私をこき下ろして、小言ばかり言ってるわ」
カール「そういう時はだね。お母さんはおばあさんのまねをしているだけなんだよ。君たちは順番におばあさんのまねをしているわけだ」
カール「あなたのお母さんの力とか攻撃性については、実際にはご本人がそれを感じておられたかどうかは分からないのですが、あなたにとってはたいへん苦痛だったので、ある時あなたは自己主張したり、対抗したりすることはやめようと決心されたのではないかと思うのです。母親に傷つけられたようには自分の子供を傷つけまいという説なる願いが込められていたのだと思います。しかし、あなたが子供に牛耳られたくないと思われるのも当然なことです」
カール「あなたのご両親の争いはどうなったのでしょうか。解決されましたか」
キャロリン「いいえ、ひどい状態です。あのように人生を終えようとしているのを見るのはとっても悲しいことです」
カール「私にはあなたの悲しみが前よりもずっと分かる気がしますよ」
・五回目面接
家族療法の面接の中で、性に関する話題を子供を交えた形で取り上げることは不可能だと思われるかも知れない
しかし、実際には可能
一家に漂う緊張感が非常に高い理由の一つには性生活の不一致があったことは明白である
事実、家族が重大な危機を迎えていた頃、15歳のクローディアはおそらく両親よりも豊富な性体験を持っていたと思われる
それは大抵は刹那的で衝動的な愛情の伴わない関係であった
クローディアは異性との交遊を始めるまで、両親に強く依存していた
したがって、両親と争い始めた時、依存の対象を別に求める必要性が生じたのである
その対象がセックスであった
同時にクローディアはセックスに対する家族の不安や罪悪感にも反応していた
キャロリンとデビットはクローディアの不順な行為を婉曲的に非難はしたが、そのしかり方にはどことなくそれを奨励するような含みがあった
キャロリンとデビットには、娘に不順な異性関係を持つように暗黙の内に働きかける、十分な理由があった
二人はセックスについて自分たちで語り合うことが出来なかったためである
クローディアは両親にその問題を直面させる役割を果たした
子どもがいかに両親の隠された不安や欲求を自らの行動に移し替えるかは不思議な現象であるが、そうしたことは確かに起こるのである
クローディアのセックスの問題は両親のそれであったわけである
家族療法は、家族の各成員の無意識が繋がっているとか、テレパシーで繋がってるとか前提としないと考えにくい不思議な現象ってのがある、と堂々と認めるのがおもしろい
カール「これは一般的なパターンですが、夫は仕事を恋人にし、妻は子供を恋人にするということです。そしてそれぞれは相手が不誠実だと感じて入りというわけです」
家族とは最初のうちはそれが表面的なものであっても「すべてうまくいっている」ことを見せようとするものである
しかし、治療者はその見せかけを家族自体で崩せるように援助する必要がある