・群衆にあっては、同感はただちに崇拝となり、反感は生まれるやいなや憎悪に変わる
私は、それを宗教的感情と名付ける以外に、よりいっそう適当な定義を知らない
偏狭さと狂信とは、普通、宗教的感情にはつきものである
政治上、敬神上、社会上の信念は、常に宗教的形式をおびるという条件のもとにおいてのみ、群衆のうちに確立されるのであって、この宗教的形式が、それらの信念をして議論の余地無くさせる
もし群衆に無神論を信奉させることができるのならば、この無神論は、宗教的感情に特有の偏狭な熱情を伴って、外形的にはたちまち一種の宗教となるであろう
歴史上の最も重要な事件は、常に群衆の確信が結局帯びるにいたる宗教的形式なるものを認めた後に初めて、理解される
・民族を真に導くものは伝統である
民族が容易に変化させるのは、伝統の外形のみである
・制度が社会の欠陥を正し得るとか、民族の進歩が憲法や政体の改良に起因するとかいう考えは、今なお非常に広く普及されている
制度や政体は、種族性の所産である
それらは、時代を創造するものであるどころか、かえって時代によって創造されるものである
制度は何ら本質的な価値を持っていず、それ自体ではよくも悪くもない
民族は事実上その制度を改める力を少しも持っていないのである
激烈な革命によって、名目を変えることはできるが、その本質は変わらない
・教育が人間を一層道徳的にも幸福にもせず、情欲や本能を改めず、しかも指導を誤ればむしろ大いに有害となりかねない
職業能力を増進させるために実効をあげることができないと主張したものは誰一人としていない
第一の危険、教科書の暗誦が知力を発達させると思い込んでいること
青年にとって、教育とは、暗誦と服従とを意味する、「これは滑稽な教育法であって、そこでは、一切の努力が、教師に絶対に誤りがないと盲信することであり、結局知能をかえって減退させる」
この教育法は重大な危険を呈する、その危険とは、自分の生まれながらの身分に対する激しい嫌悪とそこから逃れ出ようとする強烈な欲望とを吹き込む
労働者、農夫、中流人も国家から俸給を受ける官職以外のどんな職業も眼中に置かない
学校は、実生活に適応するように人々を仕込むのではなくて、何の創意のひらめきも要しない官界を目当てに人々を仕込むに過ぎない
下層においては不満を抱き反抗しようとするプロレタリアの群を生み出し、上層においては軽佻浮薄な有産階級を生み出す
この本すごいねえ
官界に大企業ってのが加わったくらいで、今でも大体この通り
国家はひたすら教科書を頼りに全ての免状所有者をつくりあげるが、その内の極小数しか採用できないから、他の者は無職のままでいることになる
従って、国家は前者を養い、後者を敵とすることを覚悟せねばなるまい
このような時流に逆行しようとしても手遅れである
民族の究極の教育者である経験のみが、誤りを示してくれるだろう
ただ経験のみが、いまわしい競争試験の代わりに、職業教育をもってする必要を立証してくれよう
今の日本はこれを立証している最中かな
・言葉の力はそれが喚起する心象に関連しているが、言葉の真実の意味とは全く無関係である
極めて意味の曖昧な言葉が、往々極めて大きな影響力を持つ
例えば、民主主義、社会主義、平等、自由等
言葉というものは、時代により民族によって変化する、移動しやすい一時的な意味を持つに過ぎないのである
その言葉が、ある時期の群衆に対してどんな意味を持っているか知らねばならないのであって、その言葉のかつての意味や、群衆とは異なる精神構造を持つ個人に通用する意味などは知る必要がないのである
従って、真の政治家たる者の第一の義務は、事物そのものには修正を加えずに、その言葉を変更することである
統領政治や帝政の事業は、過去の制度の大部分を新たな言葉で装うことであった
政治家の最も肝要な職責の一つは、古い名称のままでは群衆に嫌悪される事物を、気受けの良い言葉で呼ぶことにある
用語を巧みに選択しさえすれば、最も忌まわしいものでも受け入れさせることができる
・幻想は民衆にとって必要欠くべからざるものであるために、民衆は灯火に向かう昆虫のように、幻想を提供する修辞家の方へ本能的に向かうのである
民族進化の大きな原動力は、真実ではなくて、誤謬であった
今日、社会主義が、その勢力を加えつつあるのは、それが今なお活気のある唯一の幻想に他ならぬからである
笑
群衆は、自分らの気に入らぬ明白な事実の前では身をかわして、むしろ誤謬でも魅力があるならば、それを神のように崇めようとする
群衆に幻想を与える術を心得ているものは容易に群衆の支配者となり、群衆の幻想を打破しようと試みるものは常に群衆の生け贄になる
経験は、群衆の精神に真実を確立し、あまりにも危険になりすぎた幻想を打破するために有効なほとんど唯一の手段である
しかし、それには大規模に実現され、またしばしばくりかえされなければならない
一世代によってなされた経験は、次の世代にとってはおおむね無用である
・群衆を説得するのに必要なのは、群衆を活気づけている感情の何であるかを理解して、自分もその感情を共にしている風を装い、ついで幼稚な連想によって、暗示に富んだある種の想像をかきたてその感情に変更を加えようと試みること、必要に応じては後戻りし、特に、新たに生まれる感情を見抜くこと
これは普通の人よりもサイコパスの方が長けていそうだ
自分の感情がない分、冷静に他人の感情を観察できるんだから
言葉を種々に変化させるのが必要であるから、およそ考えぬかれて、下ごしらえのできている演説に効果がないのは、あらかじめ分かっている
理詰めな人々は、その論法に効力がないのに、彼ら自身、常に驚いている
原始的な頭脳の人々を、推理によって説き伏せようと試みるならば、この論法が薄弱な価値しか有しないことが分かるだろう
頭いい人が往々にして実社会で頭悪いのはこれが理由かと
・空想は多分必要なものであろう
名誉心、自己犠牲、宗教的信仰、功名心、祖国愛のような感情はしばしば道理に反して生まれたのであって、これらの感情こそ、あらゆる文明の大原動力であった