・九回目面接
ドン「ウィテカー先生、先生の嫌味は本当に頭にくるんだよ。それに僕を対等に扱わないことにも腹がたつしね」
カール「というと君は賢いから、一人前の大人として扱われるべきだということなの。君がどれほそ嫌われているかと思うと心が痛むよ。世の中にはまったく自信が持てなくて、自分はダメだ、軽蔑されていると思い悩んでいる人がたくさんいるんだよ。そういう人は周りの人が自分を軽蔑していると感じてその人を憎むっていうわけだ。君は大人の世代に属しているというような気持ちがあるみたいようだけど、一体それはどこから生まれてきたんだろうね」
キャロリン「やはりドンのことが心配でたまらないのです。ドンにはほとほと手を焼いていますから」
キャロリンの「心配」とは、実は「怒り」を意味しているのだった
子供を心配してるとダメになる、という話はスピでちょくちょく見かけるが、「心配」とは実は「怒り」なんだからさもありなん
キャロリン「ドンは自分の父親が何をしても、ともかくけなすことしかしないのです。いやみばかり言ってますわ」
ドン「いいかげんにしろ。知ったかぶりはやめろ。おまえがいやみったらしいことを言わなかったら、こっちだってこうはならないぞ。こんなことはおまえが教えてくれたんじゃないか」
カール「デビット、あなたがご自分とドンのことを男同士とおっしゃった時に、それがはっきりしたと思います。ドンもクローディアと同じように、あなたとキャロリンの仲間に昇格したとも言えるでしょう。ドンがあなたを見くびるのは、デビット、あなたがドンの父親であるよりも仲間になろうとされるからかもしれませんよ。」
デビット「私自身、父親との間には大きな隔たりを持っていました。息子とは同じことを繰り返したくないと思っているのかも知れません」
カール「あなたが年長者として振る舞わない限り、ドンはずっとそういう世代の人を身近に感じることは出来ないでしょう。今お二人の間では親と子の世代が逆転しているような感じすらします」
カール「ドンの葛藤とか怒りというものは、デビットが二人の男性を演じていることに関係するのかも知れません。あなたはデビットがいないときには『誰か他の男性』に頼りたいという気持ちを持たれるようなんです。この男性というのはドンのことですがね。あなたとドンの間にはデビットとドンが求めても得られないような目に見えない親密感があるようですね。ドンがあなたに腹を立てたとき、あなたが『驚かされる』のはそれにひびが入るのではないかと感じてしまうからなのです」
キャロリン「でもそのこととドンの腹立ちはどう関係するのか、まだ分からないのです」
カール「あなたとドンが一時的にでも親密になると、ドンはそれが続くものと思って当てにしてしまうのです。ところが、あなたとデビットがまた仲良くするので、ドンは疎外されたように感じるのです」
ドン「ママと喧嘩してどこが悪いんだい。ママとパパだってやってるじゃないか」
カール「君が自分の言ったことをよく考えてみる気があるなら、どこが悪いのか教えてあげるがね」
ドンは突然立ち上がった
その瞬間通路を飛び越えてドアへ突進するという考えが閃いた
一歩踏み出した途端にカールが伸ばした足に躓いてしまった
ドンはカールに向かって殴りかかった
細身のドンと筋骨たくましいカールとでは勝負にならなかった
カールに馬乗りになられたドンは悲鳴を上げた
カールに罵声を上げ始めた「この野郎、のきやがれ、畜生」
ドン「うろたえてなんかいないぞ。あんたにむかむかしているだけだ」
カール「君が私に怒っているとは思えないがね。とにかく腹を立てる練習台に私を使ってくれるのは結構なことだ。ただ私は君の両親のように誰かに馬乗りにされたり、メガネを叩き落とされても黙っているようなことはしないってことさ」
ドン「もう降参するから」
押さえていた手の力を次第に緩めていった
ところが、ドンは改めて戦いを挑むかのように、再び殴りかかろうとした
揉み合いが続く内、二人の敵同士は気分がほぐれてきたようであった
ドンはカールとの力比べに破れた事実だけはどうしても認められないようであった
キれる子供
デビットが身体を堅くしたまま涙を流していることに気づいた
この自制心の強い理性的な人物が顔を涙で濡らしている姿は、いかにも不釣り合いであった
次の面接
ドン「思ったよりパパは強いんだよ。僕を負かしたんだ。パパが僕に勝てるとは思わなかったな」
ドンが父親とのレスリングをこのように言いふらしたのにはわれわれ同様デビットも驚かされた
運動が苦手とはいえ、180ポンドはあるデビットと130ポンド足らずのドンでは勝負にならないことは目に見えていた
しばらくの間、ドンが自分の力に「幻想」を持っていることがその場の話題となった
デビットはドンと仲間同士でいたいばかりに、今まで一度も本気でやりあったことが無かった
そのためこの少年は自分の力を過信して育ってしまったのである
子供(幼児ではない)の全能感ってのはここらへんに根があるみたいね
カールとドンの争いをきっかけとして、デビットには自分の父親への感情が関を切ったように溢れだし、いかに父親とは疎遠であったかに目を開かされた
デビット「父は私にとっては生まれてこの方ずっと権威のある人で、それだけに影響力もとても強かったと思います。身近に感じられる人ではありませんでした。尊敬もしてますし、立派な仕事をしたとも思いますが、親しみを感じたことはありません」