うーん、ナカムラ先生は非常に頭のいい人だと思ってたんだが・・・
日光は体にいいと昔から言われてきた。なぜ体にいいのか、多くの科学者がその秘密を解き明かそうとしてきた。答えと思われたのが、ビタミンDである。たとえばこういうグラフ。血中ビタミンD濃度が高いほど、ハザード比(この場合死亡率)が低くなる。逆に、Dが最も低い人は、最も高い人よりもざっと2倍死にやすい。
さらに別の論文から、以下のようなグラフ。血中ビタミンD濃度(30 nmol/l以下 or 50 nmol/l以上)が生存率に大きな影響を与えていることがわかる。
50 nmol/L(20 ng/mL)でも全然低すぎるけどね
こういう研究をみると、「ビタミンDこそが長寿の秘密だ」と思うのが自然だろう。この推測を裏付けるには、介入研究をすればいい。ビタミンDを投与して血中濃度を高めた群とそうではない群を比較して有意差が出ればいい。しかし、、、
70歳以上の5292人を対象に1日800 IUのビタミンD3(or プラセボ)投与し、24~62か月追いかけたところ、なんと、ビタミンDはプラセボと何ら変わらなかった。つまり、ビタミンDの死亡率に対する有効性は確認できなかった。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22112804/
1日800 IUは少なすぎる、というだけに思われる
同様の研究は他にも複数あって、レビュー(いわば”論文の論文”。エビデンスレベルが最も高い)でも同じ結果が出ている。つまり「ビタミンD投与による寿命延伸効果はない」と。
『ビタミンDと疾患~系統的レビュー』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24622671/
『系統的レビュー~ビタミンDと循環代謝』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20194237/
科学者はこの結果に面食らってしまった。
太陽が体にいいことは間違いない。日光照射により血中ビタミンD濃度が上がることも確かだし、血中ビタミンDが高いほど死亡率が低くなることも正しい。
しかし、それにも関わらず、ビタミンDは”答え”ではないという。
うーん・・・
『ビタミンDと疾患~系統的レビュー』が悪い研究例として載っている
ビタミンDの分析では、投与量や投与期間などが考慮されていないケースがさらに多くあります(2013年12月)
「ビタミンDの効果を証明する」には、臨床試験とメタアナリシスにおける典型的な誤りが以下のようにまとめられています。
多くの臨床試験では、以下の1つ以上の誤りが原因で効果が認められていません。
1.ビタミンDの投与量が十分でない(多くの場合1,100 IU未満)
さらに高い投与量が必要となるのは、1) 肥満、2) 腸内環境の悪化、3) 病気(多くの疾患で大量のビタミンDが消費される)の場合です。
2.ビタミンDの投与期間が十分でない(いくつかのRCTでは5週間未満で終了しました)
3.ビタミンDの投与頻度が十分でない。ビタミンD3の場合は少なくとも2ヶ月ごと、ビタミンD2の場合は少なくとも毎週
注:投与頻度が低いと、体内の化学バランスが崩れる原因にもなります
4.ビタミンDレベルを回復させるには、ローディングドーズ(負荷量)が不十分、または投与期間が短すぎる
負荷投与(ローディングドーズ)は,投与開始時の数回,早期に目標血中濃度に達するために行われる投与
5.ビタミンD3ではなく、効果の低いビタミンD2を使用している
6.カルシウムやその他の重要な補因子の適切な範囲が確保されていない(特に骨関連の試験の場合)
また、マグネシウムの摂取量の違いによって、ビタミンDへの反応が30%変化する可能性がある
マグネシウムは水、食品、サプリメントに依存している
7.既存のビタミンDレベルを考慮していない - 効果が現れるのは、ビタミンDレベルが低い人だけである可能性が高い
8.ビタミンDの摂取方法と時期を考慮していない(反応が最大2倍変化する可能性がある)
9.コンプライアンスに関する報告がない(あるケースでは、参加者の40%がサプリメントを継続的に摂取していなかった)
上記の失敗の1つ以上が原因で多くのメタアナリシスでも効果は見出されていません
さらに、多くのメタアナリシスはすべての試験を平均化します
アスピリンのメタアナリシス(これまでに行われたことはありません)について考えてみてください
3mgの用量でアスピリンが効かないというRCTランダム化比較試験は数十件あるでしょう
30mgの用量でアスピリンが効かないというRCTも多数あるでしょう
300mg以上の用量でアスピリンが効くという研究はいくつかあるでしょう
少量のヤナギの樹皮(ビタミンD3ではなくビタミンD2を使うことに例えられる)に関する研究も多数あるでしょう
ヤナギの樹皮の成分を元にアスピリンは作られた
おそらく同様の作用があるが、ヤナギの樹皮は比較的作用が弱いんだろう
そして、アスピリンとヤナギの樹皮に関するメタアナリシスがあるでしょう
- そのメタアナリシスは、アスピリンとヤナギの樹皮は効かないという結論に至るでしょう。