・二回目の面接
現代の家族では、普通父親は傍観者的な存在であるために、家族療法に参加するのは極めて居心地が悪いことになる
もし家族を治療から遠ざけようとする人があれば、それは父親である
カール「それじゃ、クローディアはママとパパに喧嘩をさせる張本人で、君(ドン)とローラはそれを止める役をしてるみたいだね」
ドン「ママはパパの働き過ぎがとても嫌なんだな。でも、ママがそれをこぼすのはパパにではなくって僕に向かってね」
よくあるワーカホリック、ちなみにこの父親の仕事は弁護士
私「そうか、クローディアが自分の部屋に入ったきり出てこないのは、パパが書斎に閉じこもってしまうのと同じだから、それでママが怒ってしまうわけだ」
私「君のパパがママには面と向かっては言わないけど、怒っていることって何だい?」
ドン「ママ方のおばあちゃんのことだよ。気難しくって、お節介で、ママはしょっちゅうおばあちゃんに会いに行かなければならないんだ。ママにああしろこうしろって言うので、電話代や飛行機代も高く付くし、それでパパはママに怒ることになる」
カール「そうか、パパはクローディアに愚痴を言うし、ママは君に愚痴をこぼすんだね。そんな風にチームが出来ているんだね。クローディアはパパのチームで、君はママのチームというわけか」
カールはローラを安心させるように言った「だから、皆がここに集まっているんだよ。そうすれば、クローディアは家族を変えるために自殺なんかしなくてもいいからね」
裏を返すと、家族療法の視点からして、自殺とは家族を変えようという試みなのである
私は家族の秘密主義ということに思いを馳せていた
家族は秘密を守ろうとしながら、結局それを全員に知られてしまうのである
私「結婚当初、お二人は頼り合っておられましたね。」
「おそらくそれがお二人をこんなに離れさせる結果にしたのでしょう。ご主人は仕事一筋に、奥さんはお子さんたちとお母さんへとね。結婚生活で頼り合うことが、あなたを怖がらせたのでしょう」
結婚当初は、夫婦は強い依存関係にあったとする私の正確な推測を、キャロリンは私の特殊能力と考えたかも知れないが決してそうではない
大多数はアメリカ人の夢見る素晴らしい夫婦像と結婚する
結婚とは出生した家族で満たされなかった栄養、思いやり、愛情、共感、良き助言などを含む全てを手に入れることのできる幸福そのものなのである
その夢は短期間は持続される
だが早晩、夫婦の蜜月時代には終わりが来る
主な理由は、夫婦の依存関係の中で個人としてのアイデンティティを喪失するのではないかという怖れが首をもたげるため
もし夫婦が一定の距離を保ち当座の孤独に耐えるならば、問題解決の可能性も出てくる
しかし、それはまれなことであり、多くの夫婦は依存対象の代理を見つけようとする
キャロリン「探偵なんていい方は許せません。第一、そんなことをした覚えがないわ。たまに部屋を掃除してあげただけじゃないの。」
クローディア「じゃあ、ジョンからの手紙を読むのも掃除のうちってわけ」
キャロリン「あなたのことが心配だったのよ。母親として心配するのは当然じゃないの」
カール「先ほど君自身のことや、家族に対する君の見方を話して欲しいと頼んだよね。それを君はお母さんに押しつけたり、二人の喧嘩ですり替えているように思えるんだがね」
カール「お母さんは好き好んでこんなつらい思いをしていると思うかい」
クローディア「そう思うわ。だっていつも渡しを怒らせるもの」
私「じゃ、君の方はどうだい。お母さんを怒らせるようなことをしているという感じはないんだね。言わば、家族皆がダンスしていて、君のステップがお母さんを怒らせるということがだよ」
それぞれが相手に問題の原因を求めるので、容易には自分の感情や行動を振り返れなかった
真の問題は家族全体にまたがるものであり、そこには家族が変わろうにも変えられなくさせている「ファミリーダンス」と称される、複雑で苦痛を伴う家族のパターンがある
カール「もっとも重大な点はご両親がしだいに静かにお互いから離れていったこと、つまりご夫婦お関係が徐々に冷却していったということです。ある意味でクローディアの危機は、それよりさらに大きな問題であるご夫婦の冷えた関係を、ご家族の皆さんがなんとかしようと考えだした特別の方法だったのでしょうね」
カール「たしかに、クローディアはご両親を結びつけるため、そして家族を治療者へ連れてくるために戦っているキリストのような子ですね」
同様に、熊沢英一郎もキリストだったんだろうね
この場合は殺されて三日後に復活しなかったけど
家族が争いを悪化させていったのは、おそらく第三夜の援助を得られるという無意識での決定がなされたからであろう